
『クルマの渋滞 アリの行列 渋滞学が教える「混雑」の真相』 西成活裕著 技術評論社
皆さんは『渋滞学』という学問があるのをご存知でしたか?私も知りませんでしたが、新聞にこの著者のことが載っているのを見て、なんだかとても気になって買ってみました。その名前から何を研究しているのかは大体想像がつくけれど、どのような研究なのか、あるいはどのような成果が出てきているのかは全く想像がつかない、そういうものには読みたくなる魅力がありますよね。
本書において「渋滞」という言葉はかなり幅広い意味で使われています。いわゆる交通渋滞はもちろんですが、人気飲食店の前やスーパーのレジ前の行列、災害時に非難する人々の動き、アリの行列、鰯の群れ、そしてインターネットが「遅い」こと(通信渋滞)などなど。それらのいわゆる「たくさんのものの流れと混雑」を分野横断的に研究し、その仕組みや対処法を解き明かす学問、それが渋滞学なんですね。へええ、という感じです。
WEB上のパケットの流れなどはともかく、車を運転し、レジに並ぶ人々は、それぞれが個性と意思をもち、自分の判断で動いていますよね。このような「自己駆動粒子」のふるまいを扱う際には従来の物理学は役に立たず、全く違うものの考え方が要求されるため、そのような考え方として渋滞学は生まれてきたとのことです。
読んでみてまず驚くのは、車や人の渋滞などは既にかなり理論化、データ化されているんだなあ、ということ。自己駆動粒子の密度と流量をそれぞれ横軸と縦軸にとった「基本図」と呼ばれるグラフを作成すると、真ん中が高くなった山のような形を描くのだそうで、その頂点が「臨界密度」となり、臨界密度以上の状態がすなわち渋滞であると、きちんと定義されています。また、実際の研究においてはそれぞれの自己駆動粒子の動きの元になるルールを見つけ出すことでそれをモデル化し、コンピュータ上でシミュレーションを繰り返すのだそうで、そのあたりはまさに現代のサイエンスだなあ、と感じました。
本書にはさまざまな渋滞の事例とそのモデル化、そしてその対処法などが書かれていて、とても面白いです。普段そういうことを自分が発想するということがないだけに、非常に興味深く読めました。例えば、
・銀行のATMの「フォーク待ち」(こんな呼び名、知ってました?)の長所と死角
・電車の運行間隔の乱れ=ダンゴ運転はこうして発生する
・踏切が引き起こす渋滞はどうすれば緩和できるか
といった感じで、どうです?ちょっと気になりませんか?中でも興味深かったのは踏切の項目で、「踏切前では一旦停止」というルール(これがあるのは世界中で日本と韓国くらいだそうです!)をなくしてノンストップにした場合、車の流量は最大2倍になって渋滞が緩和され、その一旦停止の平均時間7秒の損失を日本全体で時価価値計算すると1800億円になるのだとか。そして一旦停止と再始動がなくなることで排気ガスの減少も見込まれ、その量たるや100万トン以上のCO2削減になるのだそうです。凄いですね!これについては真剣に検討されているようなので、近い将来「開いている踏切はノンストップ」と道路交通法が改正されるかもしれませんよ。
交通のことばかり書きましたが、本来もっとも優先して研究されるべきは、防災の面だと思います。明石の花火大会での歩道橋事故のように、渋滞が元で起こる事故は全国各地で起こっていますし、これからもまだまだ起こる可能性があると言えます。そのような人災を未然に防ぐためにそのメカニズムを明らかにすることはとても大切だし、その意味でも非常に成果が期待される分野だといえますね、渋滞学とは。
実はこの著者には『渋滞学』というもう少し硬めの著書もあるようですが、この「知りたいサイエンス」シリーズは写真や図解を多く用いてわかりやすく書かれている感じで、入門書としては良いように思います。









