
『暗号解読-ロゼッタストーンから量子暗号まで』 サイモン・シン著 青木薫訳 新潮社
いきなり問題です。
アリスとボブはラブレターのやりとり(郵送)をしようとしています。しかし、送ろうとする手紙は全て第三者であるイブに傍受されて中身を盗み見されてしまうため、二人はラブレターのやりとりに箱を使い、南京錠をかけてから郵送することにしました。しかし、二人は遠く離れた場所にいるため、同じひとつの南京錠を、一緒に買うことができません。しかたなく二人は別々に、それぞれ南京錠を買いました。アリスが南京錠をかけた箱をボブが開けるためには、アリスがもっている鍵を使わなくてはならないのですが、それをボブに手渡すことができません。また、鍵を郵送した場合、それもイブに傍受されて鍵のコピーを作られてしまいます。そうなれば南京錠の意味がありません。さて、このような状況においても二人は安全にラブレターをやりとりすることができるのですが、それはどのような方法でしょうか?
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本書はその名の通り、「暗号」の作成と解読の歴史を追ったドキュメントです。「暗号」という秘密の技術には以前から興味があって、ワクワクしながら読み始めたのですが、でてくる暗号の難解さにかなり苦戦を強いられました。しかしその内容の面白さに惹かれて、何とかかんとか読み終えました。疲れた...。
「暗号とは、メッセージの外見を変えることにより、正当な受信者にしか読めないようにする方法のことである。」
と本書では定義されており、その歴史は紀元前5世紀のペルシャ対ギリシャの戦争のころに遡るそうです。それ以来今日まで、様々な種類の暗号がつくられ、また解読されてきました。それぞれの時代に「解読不可能」と言われた暗号、そしてそれに挑んだ人々の苦闘がつづられており、その技術の凄さもさることながら、人間たちのドラマとして、とても面白い作品だと思います。
もちろん暗号とは往々にしてその技術自体が機密事項となりうるものですから、この本に語られている内容も以前には全く知られていなかったものも多いようです。今あるコンピュータの原型も、実は暗号の解読機械だったのだそうです(!)。戦争の時代、冷戦の時代を終えて、ようやく明るみに出たそのような機密事項を著者は入念に取材し、そしてこの本をまとめあげたようで、その苦労たるや大変なものだったのではないかと推測されます。約500ページの結構な大著ですが、その内容に全く隙はないという感じです。
本来の暗号のほかにも、解読ということで、いわゆる古文書の解読についても一章が割り当てられています。ロゼッタストーンに刻まれたヒエログリフ(エジプトの絵文字)の解読、そして一切の手がかりがないところからの「線文字B」の解読。その解読者の試行錯誤、そして閃きと執念も、私をドキドキさせてくれました。
実は冒頭の問題は、暗号作成と復号(正当な受信者が暗号を元の文に戻すこと)に必要な「鍵」の問題についてのたとえ話なんです。暗号作成者と受信者はその「鍵」を共有することによってメッセージを正しくやりとりでき、そして暗号を解読しようとする第三者は、この「鍵」が何であるかを解き明かさないといけない。これが長い暗号の歴史においての共通事項でした。しかし、実は鍵を共有しなくても暗号は使えるということが1970年代に発見されたのでした。「鍵配送問題の解決」というこの快挙、実際はもっと複雑な内容なのですが、たとえ話のこの問題でも、結構難しいですよね。私はこの部分を読んだとき、とてもスカッとして、「なるほど!」と思わずひざを打ったのですが、さて、皆さんいかがでしょうか?
この本、私としてはお薦めですが、暗号に興味がある方、あまりいないかなあ...。でも、こんな問題にそそられる方は、ご一読ください!
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